Amster Rothstein and Ebenstein, LLP - Intellectual Property Law

証拠法上の秘匿特権 ~プリビレッジを正しく理解する(1) (only available in Japanese)

- マイケル V. ソロミタ
Author(s): アムスター, ロススタイン&エーベンスタイン法律事務所 パートナー、米国特許弁護士

米国における知財訴訟実務の最前線 vol.3

証拠法上の秘匿特権
~プリビレッジを正しく理解する(1)

マイケル V. ソロミ
タ アムスター, ロススタイン&エーベンスタイン法律事務所 パートナー、

米国特許弁護士 米国訴訟対応では、ディスカバリと呼ばれる証拠開示手続きが非常に重要です。これには証拠をすべて事前に開示するこ とで和解を促進するという働きもあります。ただし、この証拠開示義務にもかかわらず開示を義務付けられない、いわゆる「 特権」対象となる証拠書類やデータが定義されています。今回はどのような情報が「弁護士依頼人間秘匿特権」「共通の利 益を根拠とした秘匿特権」「ワークプロダクト」として証拠開示義務を免れるかを見ていきましょう(注1)。

弁護士依頼人間秘匿特権

依頼人が自分の弁護士と十分に、正直な話ができるように、弁護士と依頼人のやりとりは「弁護士依頼人間秘匿特権」の 対象として証拠開示義務を免れます(注2)。「弁護士依頼人間秘匿特権」(privilege: 以下、「プリビレッジ」と呼びます)の 対象となるには、以下のすべての要件を満たすことを米国最高裁判所は求めています。

①依頼人と弁護士間のやりとりであること

②機密として保持することを意図したもの、あるいは実際に機密として保持しているもの

③法的アドバイスを得る目的で行われたやりとりであること(注3)

例えば、「依頼人がある特許を侵害していない」という弁護士の意見書は、その意見書が機密として保持される限りはプ リビレッジの対象となります。一方、依頼人が「私は特許を侵害していない」と弁護士に発言した場合、その発言が弁護士 から法的アドバイスを得ることを目的になされたものではなく、単に「私はこう思う」ということを述べたにとどまる場合、この 発言はプリビレッジの対象とならず、開示義務を免れません。 このプリビレッジは口頭の発言のみならず文書にも適用されます。依頼人企業の従業員が①弁護士から法的アドバイス を求めるために作成し、そして②弁護士から法的アドバイスを得るために弁護士の手元に届けた書類は、プリビレッジの対 象となります(注4)。

この「弁護士の手元に届く」ということが重要なのです。単に弁護士に「写し」が送られた、あるいは、 書類内に弁護士名への言及がある、といったことでは、プリビレッジの対象とならないことに十分ご注意下さい(注5)。ま た、弁護士が法的アドバイスを与えるためにその書類を受領することが、プリビレッジの対象となる要件ですから、その書 類は弁護士が理解できる形で書かれていなくてはなりません。これは日本の皆様がアメリカ人弁護士と日本語の書類をや りとりする場合に非常に重要です。日本の皆様が、依頼人としてアメリカ人弁護士に日本語の書類を送った、あるいは、書 類内で当該アメリカ人弁護士に言及したからといって必ずその書類がプリビレッジの対象となるものではありません。その 文書が弁護士から法的アドバイスを得るために作成されたものであり、かつ、そのアメリカ人弁護士が日本語を理解でき る、あるいは日本語文書と同時に英文翻訳も送付される、という状態でなくてはプリビレッジの対象にはなりません。内容 が分からなければ法的アドバイスのしようがないからです。

このプリビレッジを放棄できるのは依頼人のみです(注6)。放棄の一例をあげると、依頼人がプリビレッジの対象である 書類を第三者に開示すると、その書類はもはやプリビレッジの対象として保護されません。例えば、あなたが製造業者で、 自分の弁護士から、「自社製品は特許を侵害していない」という意見書を受け取っていたとしましょう。そしてこの意見書 を、「弊社の製品に特許侵害問題はありません」と示す証拠として客先に開示したとします。この行為は第三者への開示に よる「プリビレッジの放棄」であり、この意見書はもはやプリビレッジの対象として保護されません。客先と機密保持契約を 締結して意見書を開示したとしても、放棄であることに変わりはありません。このような場合、機密保持契約を締結するの ではなく、客先にこの意見書を開示する、という限定的目的のために、自分の弁護士を客先の弁護士として雇わせる契約 を、弁護士と客先間で結ぶと良いのです。すると、自分の弁護士にとって、客先も依頼人であり、弁護士がその依頼人に法 的意見を提供する、という形になりますから特権を維持することができます。

また、特許侵害訴訟において故意侵害を主張された被告が、自分の弁護士から非侵害の意見をもらった、ということをベ ースに故意侵害を否定する場合、これが「プリビレッジの放棄」とみなされ、弁護士の意見はプリビレッジの対象外となりま す。この点については、最近の連邦巡回控訴裁判所の決定を解説する必要がありますが、これは次回以降の記事で取り 扱うことにします。

 

注1: 今回の記事作成にあたり、同僚のマリオン・P・メテルスキ弁護士の協力を得た。

注2: Upjohn Co. v. United States, 449 U.S. 383, 389 (1981)

注3: Fisher v. United States, 425 U.S. 391, 403 (1976); see also, American Standard, Inc. v. Pfizer Inc., 828 F.2d 734, 745 (Fed. Cir. 1987)

注4: See, Cuno, Inc. v. Pall Corp., 121 F.R.D. 198, 201 (E.D.N.Y. 1988)

注5: ABB Kent-Taylor, Inc. v. Stallings & Co., 172 F.R.D. 53, 57 (W.D.N.Y. 1996)

注6: In re Seagate Tech., LLC, Misc. No830, 2007 U.S. App.Lexis 19768 (Fed. Cir. Aug. 20, 2007).

注7: See United States v. Bergonzi, 216 F.R.D. 487, 495 (N.D. Cal. 2003)

注8: See Nidec Corp. v. Victor Co., No. C-05-0686, 2007 U.S. Dist. LEXIS 48841, at *10 (N.D.Cal.July3, 2007)

注9: RICE, ATTORNEY-CLIENT PRIVILEGE IN THE UNITED STATES § 4:35, at 216.




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