Amster Rothstein and Ebenstein, LLP - Intellectual Property Law

弁護士の鑑定書の重要性-シーゲート判決(1) (only available in Japanese)

- マイケル V. ソロミタ
Author(s): アムスター, ロススタイン&エーベンスタイン法律事務所 パートナー、米国特許弁護士

米国における知財訴訟実務の最前線 vol.4

弁護士の鑑定書の重要性-シーゲート判決(1)

マイケル V. ソロミタ
アムスター, ロススタイン&エーベンスタイン法律事務所 パートナー、米国特許弁護士

前回のコラムでは証拠法上の秘匿特権としてプリビレッジを正しく理解することに焦点を当てました。今回は具体的な判 例を取り上げながら、特許の故意侵害主張に反論する際に、弁護士の鑑定書が果たす役割について検討しましょう(注1) 。取り上げる判例は、巡回控訴裁判所で争われた「シーゲート判決」です(注2) 。この判例は、特許所有者が故意侵害を主 張する場合に、「客観的にみて無謀」な行いがあったと明確かつ十分な説得力のある証拠で示すよう求めました。また同時 に、故意侵害を主張された側が弁護士の鑑定書に依拠して行動したことを主張する場合に、どこまでプリビレッジを放棄し なくてはならないのかを明確にしました。

この「客観的に見て無謀」という新しい基準により、今後、故意侵害を立証することはより難しくなります。ただし、基準が 「客観的」ですから、侵害を主張された当事者が、弁護士の鑑定書に基づき、特許は無効あるいは非侵害、と心から信じた としてもそれは主観に過ぎず、その行為が客観的にみて無謀であれば故意侵害となる可能性もあります。このためシーゲ ート判決は、そもそも主観を構成する要素である弁護士の鑑定書を得ることに利益があるのか、という問題を提起すること になったのです。

結論は「イエス」です。今後も、正しい事業判断をするために、主張された特許の有効性や侵害性について、弁護士の鑑 定書を得ることには利益があります。またシーゲート判決により、「弁護士の鑑定書に依存した」という主観が、故意侵害の 認定にそれほど重要な役割を果たさなくなりました(注3) から、将来的に鑑定書が法廷で開示される可能性を懸念すること なく、弁護士はより自由に、率直な内容の鑑定書を作成することができるようになります。ただしシーゲート判決は複雑でい くつかの矛盾点があるようにも見えます。これらについて、巡回控訴裁判所は詳細に判旨を述べることはせず、今後の連 邦地裁の解釈に委ねました。ですから少し解釈が難しい点もありますが、もし、この記事をご覧になったあと、シーゲート判 決の影響についてご質問などございましたら、遠慮なくIPNEXT編集部までお問い合わせ下さい。

シーゲート判決とは

2000年7月13日、原告であるConvolve社とマサチューセッツ工科大学が、シーゲート・テクノロジー社を特許の故意侵害 で提訴しました。シーゲート社は将来の故意侵害主張を避けるため、事前にジェラルド・セキムラ弁護士から鑑定書を取得 していました。なお、セキムラ弁護士は訴訟チームの一員ではありませんし、彼の鑑定書は訴訟チームの弁護士に事前に 開示されませんでした。この訴訟において、シーゲート社は故意侵害主張に反論するため、セキムラ弁護士の鑑定書と、この鑑定書に関するセキムラ弁護士との交信を原告に開示しました。これに対し、原告は鑑定書に関わる限り、セキムラ弁 護士との交信に限らず、訴訟チームの弁護士との交信を含むすべての交信を開示するように申し立てました。連邦地裁は この申し立てを認め、シーゲート社に対して秘匿特権を放棄し、セキムラ弁護士の鑑定書に関わるすべての交信(訴訟チ ームの弁護士、社内弁護士との交信等を全て含む)を提出するように命じました。この決定を不服としたシーゲート社は、 連邦巡回控訴裁判所に控訴しました。

巡回控訴裁判所は、弁護士の鑑定書への依拠と秘匿特権放棄に関する過去の判例を紐解きました。過去の判例は、「 ある特許の侵害の可能性について実際に通知を受けたり、気付いたりした者は、その真偽を判断する注意義務があり、こ の義務には適切な法的意見を得ることも含まれている」としています。この注意義務に照らし、侵害主張を受けた当事者は 弁護士の鑑定書を取り、それに基づいて善意で行為を継続したと一様に主張するようになったのです。ただしこの主張を 行うには、弁護士の鑑定書に関する秘匿特権を放棄しなくてはなりませんでした。当時、巡回控訴裁判所は、善意の有無 による故意侵害の判断は、過失の判断に通じる、つまり、侵害を主張された当事者が善意でなければ、過失に基づく故意 侵害を形成するとしていました。

シーゲート判決において、巡回控訴裁判所は知財以外の法律分野における故意の定義を調べました。そして、一般的 に、故意を立証するには過失では足りず「無謀な行動だった」といえる必要がある、と判断したのです。そして過去の判例 から離れて、特許侵害における故意侵害の立証には、過失より高い基準である「客観的にみて無謀」という要素が最低必 要であると述べました。客観的に見て無謀と言うためには、(1)ある行為が、有効な特許の侵害を構成する可能性が客観 的に見て高いにもかかわらず、侵害者が当該行為を行ったということを明確かつ十分な説得力のある証拠で示すこと、お よび(2)侵害者が侵害のリスクを知っていた、あるいは当然知るべきであったと示すこと、の2点が特許所有者に求められ ます。つまり、特許所有者が、まず侵害者の行為そのものが無謀であったことを示し、さらに侵害者がその行為が無謀であ ったことを知っていた、あるいは当然知りえたという2ステップの立証が必要である、と判断したのです。ですから、最初の 点が立証されてから初めて、侵害者の主観である2つめの点が問題となります。

巡回控訴裁判所はこれ以上詳細に判断基準をもうけることは避け、連邦地裁に事件を差し戻しました。しかし、故意の判 断にあたり、侵害者が善意であったかを問題としないという点は、巡回控訴裁判所によって明示されました。ですから、善 意を示すために弁護士の鑑定書を取る必要はなくなったわけです。また、巡回控訴裁判所は、訴訟開始前の侵害者の行 為に故意性がなくてはならず、訴訟開始後の行為は、訴訟開始後に得た弁護士の鑑定書に依拠したか否かも含めて故意 性の判断には無関係である、とも述べました。そして弁護士の鑑定書に依拠したことを示すための秘匿特権放棄やワーク プロダクト保護の放棄は、訴訟弁護士との交信には及ばない、と続けました。

 

注1: もし故意侵害が認められると懲罰的賠償による賠償金の最大3倍化など、拡大損害賠償が命じられる場合がある

注2: In re Seagate, 497 F.3d 1360 (Fed. Cir. 2007)

注3: 従来は、「弁護士の鑑定書に依存した」という主張は故意侵害を否定するための重要要素であり、弁護士はこの鑑定書が90%以上の確 立で法廷で使用される、という心積もりで鑑定書を作成していたと思われる




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