Amster Rothstein and Ebenstein, LLP - Intellectual Property Law

米国最高裁判決における特許関連トピックス ~KSR判決を中心に(1) (only available in Japanese)

- マイケル V. ソロミタ
Author(s): アムスター, ロススタイン&エーベンスタイン法律事務所 パートナー、米国特許弁護士

米国における知財訴訟実務の最前線 vol.2

米国最高裁判決における特許関連トピックス
~KSR判決を中心に(1)

マイケル V. ソロミタ

アムスター, ロススタイン&エーベンスタイン法律事務所 パートナー、米国特許弁護士

今回は最近の米国最高裁判所による特許関連分野判決、およびそれが皆様の日々の知財活動や戦略立案に与える影 響をテーマに取り上げ、主にKSR Int’l Co. v. Teleflex Inc. (KSR判決、注1)に焦点をあて、解説いたします。

自明性に関するKSR判決

KSR判決とは、特許クレーム(請求項)の「自明性」の判断において、公知技術の組み合わせがいかなる影響を及ぼす かを見直したものです。最高裁判所は、自明性に関して過去の判例により確立していた厳格な運用の一部を本判決で不 要としました。よってKSR判決の元では、特許侵害裁判における被告が公知技術を組み合わせ、対象特許が自明であり、 無効であると主張することが容易になります。これは特許侵害裁判や特許ライセンス戦略立案上、重要な意味合いを持つ だけでなく、特許出願審査における米国特許庁の審査官の行動にも大変な影響を及ぼします。特許侵害裁判における被 告と同様、審査官が公知技術の組み合わせにより「当該出願における発明は自明であり、特許は認められない」と決定す る可能性が高くなったのです。

一方、今年1月のMedImmune, Inc. v. Genetech, Inc. (注2)はライセンス許諾を受けているライセンシーが、許諾対象 特許の有効性を訴訟で争うことができるか、を決したものです。米国最高裁判所は、「ライセンス契約を有効に保持したま ま、ライセンシーは許諾対象特許の有効性を争うことができる」と判断しました。これにより、ライセンシーはライセンス契約 を維持・特許使用料を支払い、侵害訴訟の危険を回避しながら、許諾特許の有効性を争う訴訟(確認訴訟)を提訴できるよ うになりました。この判決は、今後、確認訴訟件数の増加を引き起こすでしょうし、同時にライセンス契約締結時にどのよう な文言を入れておく必要があるかという問題を、ライセンシー、ライセンサーの両方に投げかけることになります。

2007年度の重要特許関連の米国裁判所判決としては、Microsoft Corp. v. AT&T Corp. (注3)もあります。これはソフト ウェアコードが外国で(米国外で)複製された場合、このソフトウェアコードは米国特許法271条(f) が侵害要件とする「米国 から提供された侵害品のコンポーネント」にはあたらない、としたものです。つまり、米国外で複製され米国外で使用される ソフトウェアは米国特許を侵害しないとし、米国最高裁判所が米国特許法の域外適用を躊躇したものと言えるでしょう。こ の判決について、日本企業の皆様への影響はあまり大きくないと思われます。

その他に、これは2006年の最高裁判決ですが、eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C. (注4)も挙げておきましょう。「仮差 止め」を認めるには伝統的に4つの要素(注5)が満たされる必要がありますが、この判決は特許侵害訴訟において永久差 止めを認めるかを判断する際にも、この4つの要素を適用すると明示したものです。これにより、特許侵害裁判において侵 害を主張する原告が、侵害対象品の競合製品・サービスを提供していない場合、永久差止めを勝ち取ることが難しくなりま した。つまり、非競合の原告が、差止めにより被告に圧力をかける力が弱まったと言えます。

米国連邦裁判システム

米国憲法は「米国特許に関する問題は連邦に関する問題であり、州ではなく、連邦政府の裁判所で取り扱われるもの」 としています。連邦裁判所は(1)地方裁判所、(2)控訴裁判所、(3)最高裁判所の3層構造で、まず最初に問題を取り扱う 地方裁判所が公判を実施、控訴裁判所は地方裁判所の判断を吟味し、そして最高裁判所が控訴裁判所の判断を吟味す る、というピラミッド構造になっています。特許に関する控訴は、連邦巡回控訴裁判所(「CAFC」または「巡回裁判所」)の専 権であり、CAFCが(2)の控訴裁判所の役割を果たします。そしてワシントンDCにある最高裁判所が9人の判事により、米 国法の番人として最終決定を下します。

通常、最高裁判所が控訴裁判所から上がってくる問題を受け付けるケースは決して多くありません。過去、最高裁判所が 特許問題の上訴を取り上げるのは非常に稀なことであり、特許についてはCAFCに一任しているものと見られていました。 しかしながら、ここ数年、最高裁判所は冒頭に紹介したように特許問題を多く取り上げ、その関与を高めているのです。 次 回から、KSR判決の争点や影響について順に述べていきます。

 

注1: KSR International v. Teleflex Inc.事件 550 U.S. , 127 S. Ct. 1727 (2007)

注2: MedImmune, Inc. v. Genetech, Inc.事件 549 U.S. , 127 S. Ct. 764 (2007)

注3: Microsoft Corp. v. AT&T Corp.事件 550 U.S. , 127 S. Ct. 1746 (2007)

注4: eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C.事件 547 U.S. , 126 S. Ct. 1837 (2006)

注5: 差止めを認める要件としては、以下の4つを特許所有者が立証する必要がある。

①差止めが認められなければ回復しがたい損害が発生していること、②損害賠償といった金銭的な賠償のみでは被った損害を補うに十分では ないこと、③差止めを認める・認めない場合に原告・被告のそれぞれに発生する状況のバランスが大きく異なること、④差止めを認めることに よって公共の利益が損なわれないこと。




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