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米国最高裁判決における特許関連トピックス ~KSR判決を中心に(2) (only available in Japanese)

- マイケル V. ソロミタ
Author(s): アムスター, ロススタイン&エーベンスタイン法律事務所 パートナー、米国特許弁護士

米国における知財訴訟実務の最前線 vol.2

米国最高裁判決における特許関連トピックス
~KSR判決を中心に(2)

マイケル V. ソロミタ
アムスター, ロススタイン&エーベンスタイン法律事務所 パートナー、米国特許弁護士

今回より、KSR判決の争点や影響について順に述べていきます。

自明性に関するKSR判決

KSR判決は、特許クレームが「自明であり無効」と判断される理由となる、引用の組み合わせ方に関する判決です。米国 特許法によると、公知技術に基づき特許が無効と判断されるには2つの場合があります。1つは102条により、当該特許ク レームが「予見可能であった」と判断される場合です。ある1件の先行例が明示的にあるいは本質的に、クレームにあるす べての要素を開示していると判断された場合、「予見可能であった」としてそのクレームは無効になります。もう1つは 103 条によるもので、いくつかの公知技術を組み合わせて自明性を争う場合であり、ここでは満たすべき要件がいくつかありま す。KSR判決の争点はこの要件に関するものです。

KSR判決の事実背景

KSR判決で問題になった特許は、自動車の可動式アクセルペダルに関するEngelgau氏を発明者とする米国特許 6,237,565(「565特許」)です。565特許のクレーム4には、こう記されています。

(1) a position-adjustable gas pedal which rotates about a fixed pivot point on a support member

(サポートフレーム上に固定された旋回軸にそって回転する可動式アクセルペダル)

(2) an electronic sensor that determines the position of the gas pedal

(アクセルペダルの位置を決定する電子センサー)

(3) the electronic sensor is positioned on the support member

(電子センサーはサポートフレーム上に設置される)

米国特許庁で検討された多くの公知技術は(2)と(3)の要素を開示していました。また、米国特許庁では検討されなかっ た、浅野氏を発明者とする米国特許5,010,782(「浅野特許」)は、固定された旋回軸にそって回転する可動式アクセルペダ ルという(1)の要素を開示していました。地裁はこれら公知技術を組み合わせること、つまり浅野特許に電子センサーを組 み合わせることは自明であったと判断し、「クレーム4は無効」としました。これに対し、CAFCは「これら公知技術を組み合 わせることは、CAFCにおける自明性判断基準に沿わない」として地裁の判断を覆しました。

CAFCにおける自明性判断基準

CAFCにおける自明性判断基準によると、その技術分野において通常期待される技術の知識を持つ者(「技術者」)にと って、ある公知技術を組み合わせることの「指導(teaching)、示唆(suggestion)、または動機付け(motivation)」があった と言える場合、その組み合わせにより特許クレームは自明かつ無効となります(いわゆる「TSMテスト」)。TSMテストにお いては公知技術そのもの、当該公知技術が解決しようとした問題の性質、あるいは技術者の知見のいずれかが、「公知技 術に開示された内容を組み合わせることを動機付ける、または示唆するものであること」が求められます(KSR判決2ペー ジ目からの引用、注6)。CAFCは、ある特許のクレーム内容を見た者が、いろいろな公知技術を後知恵で組み合わせて無 効主張をしないようにするために、TSMテストを創り出しました。このテストでは、「公知技術で解決しようとした問題と、今 回の特許の発明者が解決しようとした問題が全く同じもの」でない限り、技術者は「当該公知技術を参考にするよう動機付 けされていた」とは言えません。CAFCはKSR事件を判断するにあたり、侵害を主張されている被告が指摘した公知技術 は、565特許が解決しようとした問題の解決を目指したものではないため、「技術者は浅野特許にいうアクセルペダルに電 子センサーを組み合わせることを動機付けされていたとは言えない」としました。 また、被告は「技術者なら誰でも浅野特許を電子センサーと組み合わせただろう」と主張しましたが、「“誰でもそうしただ ろう”というのは自明性を構成するものではない」と長きにわたって解釈されてきたので、CAFCはこの主張も否定しました。

最高裁判所の判断

最高裁判所はKSR判決において、CAFCによる厳格なTSMテストの運用を否定し、自明性の判断について過去の最高裁 判所の判例を総括した「より拡大的かつ柔軟な基準」を示すと同時に、CAFCが多くの誤りを犯した、と指摘しました。

最高裁判所が指摘したCAFCの誤りの1つめは、「裁判所および特許審査官は、当該特許が解決しようとした問題のみを 自明性の判断において考慮する」としたことです。最高裁判所は、「解決しようとした問題のみならず、当該特許発明がなさ れた当時、その技術分野において知られていた、当該発明が言及するニーズや課題のすべてが、ある公知技術を組み合 わせる理由となり得る」とし、技術者が公知技術を組み合わせる理由となる範囲を拡大しました。

2つめの誤りは、CAFCが「その発明が解決しようとする問題と同じ問題を解決しようとした公知技術のみが参照され得 る」としたことであり、最高裁判所は、「良く知っている技術を、もともとそれが解決しようとしていた問題以外にも使ってみよ うと、技術者は考えるかもしれない」と指摘しました。多くの場合、技術者は複数の特許をパズルのように組み合わせて自 分の問題を解こうとするものです。ですから、最高裁判所は「技術者は常識に従って、公知技術のある要素を、その公知技 術の本来の目的以外に使用し得る」としました。

3つめの誤りは、「誰でもそれを組み合わせただろう、というだけでは特許が自明であるといえない」としたことです。最高 裁判所はデザイン上のニーズや市場からの圧力の中、既存あるいは考え得る解決策が多々ある場合、「技術者が知る範 囲でいろいろな選択肢を試してみることは十分ありえる」としました。つまり、自明性の判断における技術者の知識や、行 ったであろう努力の範囲を拡大したのです。最後に、最高裁判所は「CAFCが、公知技術の組み合わせを検討するにあた り、“裁判所(注7)や特許審査官が発明を見た後で、この組み合わせは可能であったと簡単に判断するのではないか”と心 配するのは取り越し苦労であり、常識を逸脱するような厳格なTSMテストは不適切である」と判断しました。

こうした柔軟な基準適用の結果、最高裁判所は「技術者は浅野特許とその他の公知技術を組み合わせ得た」とし、「565 特許のクレーム4は無効」とした地裁判決を支持しました。最高裁判所は、「この技術分野でいろいろな課題に直面している ペダル設計技術者が、電子センサーを使用して浅野特許にあるアクセルペダルをより優れたものにしようと考え得たかどう か」が本件での適切な疑問であり、この点については「考え得た」として565特許を自明と判断したのです。

 

注6: Al-Site Corp. v. VSI Int’l, Inc., 174 F.3d 1308, 1323-24 (Fed. Cir. 1999)

注7: 「裁判所」は地裁・CAFCの両方を含み、登録された特許の無効性を争う裁判でその特許を見ることになる。

 




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